インクルーシブビジネス事例

人事・CSR担当者のためのインクルーシブ雇用推進ガイド:社内協力体制の構築と他部署との連携術

Tags: インクルーシブ雇用, 難民雇用, CSR, 人事戦略, 社内連携

インクルーシブ雇用推進における社内協力体制構築の重要性

近年、企業のCSR活動の一環として、難民を含む多様な人材の雇用(インクルーシブ雇用)への関心が高まっています。これは、社会貢献のみならず、企業の持続的な成長や競争力強化にも繋がる重要な経営戦略となり得ます。しかし、実際にインクルーシブ雇用を組織内で推進していくにあたり、人事部門やCSR部門の担当者が直面する課題の一つに、社内における協力体制の構築や他部署との連携が挙げられます。

インクルーシブ雇用は、採用活動のみで完結するものではありません。受け入れ体制の整備、現場での業務指導、メンタルヘルスケア、評価制度への組み込みなど、多岐にわたるプロセスが存在し、これらは人事、現場、総務、経営層など、様々な部署や役職の協力なしには円滑に進められません。本記事では、人事・CSR担当者が主体となり、どのようにして社内の協力体制を築き、他部署との連携を成功させるかに焦点を当て、実践的なノウハウをご紹介します。

推進体制構築の基本:誰を、どのように巻き込むか

インクルーシブ雇用を効果的に推進するためには、まず強固な推進体制を社内に構築することが不可欠です。推進の核となるのは多くの場合、人事部門やCSR部門ですが、これらの部門だけでは不十分です。

推進チームの構成要素

理想的な推進チームは、以下のような要素をバランス良く含んでいるべきです。

  1. 経営層: 推進の旗振り役となり、全社的なコミットメントを示す存在です。推進の意義や目標を明確に理解してもらい、支援を得ることが最も重要です。
  2. 人事・CSR部門: プロジェクト全体の企画・運営、採用プロセス、研修、制度設計などを担当します。中心的な役割を担います。
  3. 現場部門: 多様な人材の受け入れ先となり、日々の業務指導やサポートを行います。現場の理解と協力が、定着と活躍の鍵となります。
  4. 総務・IT部門: 職場環境の整備、必要な備品やシステムの準備を担当します。ハード面のサポート体制構築に不可欠です。
  5. 広報・IR部門: 社内外への情報発信を担当し、インクルーシブ雇用の取り組みを企業の価値向上に繋げます。
  6. ユニオン・従業員代表: 従業員の意見を代表し、制度設計や環境整備において建設的なフィードバックを提供します。

これらの関係者の中から、インクルーシブ雇用の意義を理解し、推進に意欲的なメンバーを選定し、横断的なプロジェクトチームや推進委員会を設置することが有効です。

推進担当者の役割と求められるスキル

推進担当者は、単なる事務手続きを行うだけでなく、プロジェクトマネージャーとして全体の進捗を管理し、ファシリテーターとして関係者間のコミュニケーションを円滑にする役割を担います。求められるスキルとしては、企画力、調整力、コミュニケーション能力、そして何よりも多様性への深い理解と共感力が挙げられます。

他部署との効果的な連携戦略

推進体制を構築しても、実際に各部署が協力し、それぞれの役割を果たすためには、意図的かつ継続的な連携が必要です。他部署との連携において直面しやすい課題は、「自分事として捉えてもらえない」「業務負担が増えることへの懸念」「異文化への不安」などです。これらの壁を越えるための連携戦略を以下に示します。

1. 連携の目的とメリットの明確化

各部署に対し、「なぜその部署の協力が必要なのか」「協力することでどのようなメリットがあるのか」を具体的に説明します。例えば、現場部門には「多様な視点がチームの課題解決能力を高める」「新たな市場ニーズへの対応力が向上する」といった点を、総務部門には「職場環境整備を通じて企業イメージが向上する」といった点を伝えることが考えられます。共通の目標設定や、成功体験の共有も効果的です。

2. 定期的な情報共有と意見交換の場

推進チームが一方的に指示を出すのではなく、各部署からの意見や懸念を吸い上げる仕組みを作ります。定期的な定例会議やワークショップを開催し、進捗状況の共有、課題の洗い出し、解決策の検討を共に行います。これにより、関係者間の相互理解を深め、「やらされ感」ではなく「参画意識」を醸成します。

3. 具体的な連携手法

4. 課題発生時の迅速な対応

連携プロセスで生じる課題や懸念(例:コミュニケーションの齟齬、業務遂行上の問題など)に対し、推進チームが中心となり、関係部署と連携して迅速かつ丁寧に対応します。課題を放置せず、早期に解決することで、関係部署の信頼を得ることができます。

実践事例に学ぶ:社内協力の工夫

具体的な企業事例を参考に、社内協力体制の構築や他部署との連携における工夫を見てみましょう。

ある企業では、難民雇用を推進するにあたり、まず経営層による明確なメッセージ発信を行いました。その上で、人事、現場(製造部門)、総務、広報のメンバーで構成される横断プロジェクトチームを結成しました。このチームでは、週に一度の定例会議を実施し、採用候補者の情報共有、各部門での受け入れ準備状況の確認、発生している課題(例:業務指示の伝え方、休憩時間の過ごし方など)の共有と解決策の検討を行いました。特に、製造現場のリーダーには、難民従業員の母国語が話せる既存従業員をメンターとして任命する役割を担ってもらい、人事部門と現場リーダーが連携してメンターへのサポート研修を実施しました。また、総務部門は礼拝スペースの確保や文化的な食事への配慮など、具体的な職場環境整備を進める際に人事部門や現場の意見を丁寧に聞き取り、連携して進めました。このような継続的かつ具体的な連携により、現場の不安は軽減され、難民従業員の早期の職場適応と定着に繋がっています。

成果測定と継続的な推進に向けて

インクルーシブ雇用の推進活動の成果を測定し、関係部署や経営層に報告することは、さらなる協力と投資を得るために重要です。成果測定の指標としては、採用人数だけでなく、定着率、従業員エンゲージメントの変化、特定のチームにおける生産性向上、社内アンケートにおける多様性への意識の変化などが考えられます。これらのデータを定期的に収集・分析し、推進活動の成果を具体的に示すことで、社内の関係者は取り組みの意義を再認識し、協力のモチベーションを高めることができます。

まとめ

インクルーシブ雇用を企業文化として根付かせ、その効果を最大限に引き出すためには、人事・CSR部門だけでなく、全社的な協力体制と他部署との効果的な連携が不可欠です。推進担当者は、主体的に関与するメンバーを特定し、明確なコミュニケーションと情報共有を通じて関係性を構築する必要があります。また、各部署の懸念に丁寧に対応し、具体的な連携手法を実践すること、そして推進の成果を可視化することが、社内におけるインクルーシブ雇用の定着と発展に繋がります。本記事でご紹介した視点が、読者の皆様が社内でインクルーシブ雇用を推進される上での一助となれば幸いです。