インクルーシブな職場文化を醸成する社内アンバサダーの育成と活用:多様な人材の活躍を人的側面から推進
インクルーシブな職場文化醸成における社内アンバサダー/ロールモデルの役割
企業がインクルーシブ雇用を推進し、難民を含む多様な人材が真に活躍できる職場環境を構築するためには、制度や仕組みの整備に加え、組織文化の醸成が不可欠です。この文化醸成において重要な役割を果たすのが、社内の「インクルーシブ・アンバサダー」や「ロールモデル」として活動する従業員です。彼らは、多様性を受け入れ、互いを尊重し合う意識を社内に広め、インクルーシブな行動を促進する「人的な核」となります。
本稿では、インクルーシブ・アンバサダーやロールモデルが職場文化醸成にどのように貢献するのか、その具体的な役割、育成・活用方法、そして難民雇用における実践例について解説します。
社内アンバサダー/ロールモデルの具体的な役割
インクルーシブ・アンバサダーやロールモデルは、多様な形で職場のインクルーシブ化に貢献します。主な役割としては、以下が挙げられます。
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意識啓発と情報発信:
- ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)に関する社内イベントや研修において、自身の経験や学びを共有し、インクルーシブな行動の重要性を伝える。
- 社内報やイントラネットなどを活用し、D&Iに関する情報や成功事例を発信する。
- アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)について問題提起を行い、従業員が自身の言動を振り返るきっかけを提供する。
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橋渡しと相談役:
- 多様なバックグラウンドを持つ従業員(特に、入社間もない難民従業員など)と既存従業員との間のコミュニケーションを円滑にするサポートを行う。
- 多様な人材が抱える可能性のある疑問や不安に対して、非公式な相談窓口となり、適切な部署や支援制度へ繋ぐ役割を担う。
- 異文化間の相互理解を促進するための対話の場を設ける。
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実践的なロールモデル:
- 自身の多様な経験(例:異文化背景、異なる働き方、キャリアの軌跡など)をオープンに共有し、他の従業員にとって「自分も活躍できるかもしれない」という希望や具体的なイメージを提供する。
- 積極的に多様な従業員と交流し、インクルーシブなチームワークを体現する。
- 困難に直面しても、それを乗り越え、組織に貢献する姿勢を示すことで、他の従業員、特にマイノリティ属性を持つ従業員にとっての指針となる。
アンバサダー/ロールモデルの育成と活用方法
これらの重要な役割を担うアンバサダーやロールモデルを効果的に育成・活用するためには、計画的なアプローチが必要です。
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候補者の選定:
- D&Iに対する高い関心と理解がある従業員を公募または推薦によって募ります。役職や部署に関わらず、様々なバックグラウンドを持つ従業員が含まれることが理想的です。
- 特に、多様な経験(海外経験、ボランティア経験、育児・介護経験など)を持つ従業員は、他者への共感性や異なる視点への理解が深い場合があります。
- 難民従業員自身が、その経験を語るロールモデルとなることも非常に有効です。
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育成プログラムの実施:
- アンバサダー/ロールモデル候補者に対し、D&Iの基礎知識、コミュニケーションスキル、コーチングスキル、アンコンシャス・バイアスに関する研修などを実施します。
- 難民雇用を推進する場合、難民の背景や日本での生活に関する基礎知識、法的留意点などについても情報提供を行います。
- 自身の経験を効果的に語るためのストーリーテリング研修なども有効です。
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活動のサポート体制構築:
- アンバサダー/ロールモデルの活動が本業の負担にならないよう、活動時間の配慮や業務調整を行います。
- 人事部やCSR推進部門が定期的にミーティングを持ち、情報共有、課題解決支援、モチベーション維持のためのサポートを提供します。
- 活動に必要な情報(社内制度、外部支援機関の情報など)へのアクセスを容易にします。
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活動の促進と可視化:
- 社内報やイントラネットでアンバサダー/ロールモデルを紹介し、その活動を積極的に広報します。
- 彼らが主催する交流イベントや勉強会への参加を奨励します。
- 経営層からの応援メッセージを発信するなど、活動への認知と重要性を高めます。
難民雇用におけるアンバサダー/ロールモデルの実践例
難民雇用を進める企業において、アンバサダー/ロールモデルは特に重要な役割を果たします。
- 日本語が堪能な既存従業員: 難民従業員が直面しやすい言語や文化の壁を理解し、彼らが安心して質問できる相手となることで、早期の職場適応を支援します。休憩時間やランチタイムでの気軽な声かけ、社内イベントへの誘いなども有効です。
- 外国籍の既存従業員: 同じく異文化の環境で働いてきた経験を持つため、難民従業員の気持ちを理解しやすく、具体的なアドバイスや共感を提供できます。
- 難民従業員自身: 日本での生活や仕事の困難を乗り越え、成果を出している難民従業員は、他の難民従業員にとって最も強力なロールモデルとなります。彼らが自身の経験やキャリアパスを共有する機会(社内セミナー、懇親会など)を設けることで、後続の従業員に希望を与え、目標設定の助けとなります。企業側は、本人の同意を得た上で、経験共有の機会を丁寧に設定することが重要です。
活動の効果測定と継続的な改善
アンバサダー/ロールモデルの活動の効果を測定するためには、以下のような指標が考えられます。
- 従業員意識調査: D&Iに関する理解度、インクルーシブな職場環境への満足度、アンバサダー/ロールモデルへの認知度や接触頻度などの経年変化を追跡します。
- 従業員の定着率: 特に、難民従業員を含む多様な人材の定着率への影響を分析します。
- 相談件数/交流機会: アンバサダー/ロールモデルへの相談件数や、彼らが企画・参加した交流イベントの回数や参加者数などを把握します。
これらのデータに加え、アンバサダー/ロールモデル自身からのフィードバックや、彼らと交流した従業員からのヒアリングを通じて、活動内容やサポート体制を継続的に改善していくことが重要です。
まとめ
社内におけるインクルーシブ・アンバサダーやロールモデルの育成と活用は、インクルーシブな職場文化を醸成し、難民を含む多様な人材が能力を最大限に発揮できる環境を整備するための、非常に有効なアプローチです。彼らの存在は、単なる制度や研修だけでは到達し得ない、従業員一人ひとりの意識変革と行動変容を促し、企業全体のインクルーシブ性を人的側面から強化します。人事部やCSR推進担当者は、彼らが活躍できる環境を整え、その活動を全社的にサポートすることで、真に多様な人材が輝く組織づくりを加速させることができます。