企業における難民雇用プロジェクト推進体制の構築と部門間連携の実践ノウハウ
はじめに
企業のCSR活動や多様な人材活用の推進において、難民雇用への関心が高まっています。しかし、実際に難民雇用を組織的に進めるためには、単なる採用活動に留まらず、社内の体制構築や関係部門との連携が不可欠となります。本稿では、難民雇用を成功させるためのプロジェクト推進体制のあり方と、人事部門をはじめとする各部門がどのように連携すべきかについて、実践的なノウハウを提供します。
難民雇用プロジェクト推進体制の重要性
難民雇用は、法務、総務、現場、ITなど多岐にわたる部門の協力が必要となる取り組みです。特定の部門(例えば人事部)だけが担当するのではなく、横断的なプロジェクトとして推進することで、情報共有が円滑になり、課題への迅速な対応が可能となります。適切な体制を構築することは、従業員の受入れ準備、定着支援、そして難民従業員の能力発揮に繋がり、結果としてプロジェクトの成功確率を高めます。
推奨されるプロジェクト推進体制の形態
難民雇用プロジェクトの推進体制にはいくつかの形態が考えられますが、企業の規模や組織文化に応じて最適な形を選択することが重要です。
- 専任担当者/チームを設置: 難民雇用に関する専門知識を持つ担当者やチームを設置し、企画立案から実行、評価までを一元的に担います。専門性が高まり、外部の支援機関との連携窓口が明確になります。
- クロスファンクショナルチーム(横断プロジェクトチーム)を組成: 人事、現場責任者、総務、法務など、関連部門からメンバーを選出し、プロジェクト期間中、または継続的に活動するチームを組成します。各部門の視点や専門知識が集約され、全社的な課題解決に繋がりやすくなります。
- 既存の多様性推進部署が担当: 既にダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を推進する部署がある場合、その一部門として難民雇用を位置づけ、既存のリソースやノウハウを活用します。
特に、初めて難民雇用に取り組む企業や、複数の部門にまたがる調整が多い場合は、クロスファンクショナルチームの組成が推奨されます。これにより、各部門の当事者意識を高め、組織全体の理解促進にも繋がります。
難民雇用プロジェクトにおける主要部門の役割と連携
難民雇用を円滑に進めるためには、各部門がそれぞれの役割を理解し、密に連携することが不可欠です。
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人事部門:
- 採用計画の策定と実行。
- 外部支援機関(NPO、自治体、紹介会社など)との連携窓口。
- 雇用契約、就労ビザなどの手続きサポート。
- 社内研修(異文化理解、メンタルヘルスなど)の企画・実施。
- 難民従業員の評価制度やキャリアパス構築。
- プロジェクト全体の進捗管理と課題集約。
- 連携: 現場部門と連携し、採用要件の確認や配属計画を調整。総務部門と連携し、必要なオフィス環境や手続きについて調整。法務部門と連携し、雇用条件や就労資格の確認。
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現場部門(受け入れ部署):
- 職務内容の明確化と、難民従業員に求めるスキル・経験レベルの設定。
- OJT計画の策定と実施。
- 既存従業員への説明と受入れ準備(異文化理解研修の実施など)。
- 難民従業員の日常的なメンターシップやサポート。
- 課題発生時の早期発見と人事部門への報告。
- 連携: 人事部門と連携し、採用計画やオンボーディング計画を共有。他の現場部門と連携し、成功事例や課題を共有。
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総務部門:
- 雇用契約に関する各種手続きのサポート(給与支払い、社会保険など)。
- 必要な設備や備品の準備(PC、制服など)。
- 職場環境に関するサポート(ロッカー、休憩室の利用など)。
- 連携: 人事部門と連携し、入社手続きや必要書類に関する情報を提供。
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法務部門:
- 雇用契約の内容、労働時間、給与等が日本の労働法規に準拠しているかの確認。
- 難民従業員の就労資格(在留資格)に関する確認と管理サポート。
- プライバシー保護に関する指針策定。
- 連携: 人事部門と連携し、法的な観点からのアドバイスを提供。
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広報/CSR部門:
- 社内外への難民雇用に関する情報発信。
- 企業ブランド向上や従業員のエンゲージメント向上に資する企画。
- 連携: 人事部門と連携し、プロジェクトの進捗や成果を共有。
円滑な部門間連携のためのポイント
効果的な部門間連携を実現するためには、以下の点が重要です。
- 明確な目標と役割分担: プロジェクト全体および各部門の目標、責任範囲を明確に定義し、共有します。
- 定期的な情報共有会議: プロジェクトチームや関係部門間で定期的に会議を実施し、進捗状況、課題、成功事例などを共有します。心理的な安全性に配慮した環境で、本音で話せる場を設けることが重要です。
- 共通理解のための研修: 異文化理解研修や難民に関する基礎知識研修を、プロジェクトメンバーだけでなく、関係部門の主要メンバーにも実施します。
- 経営層のコミットメント: 経営層が難民雇用プロジェクトの重要性を認識し、支援することを明確に示します。これにより、部門間の協力が得やすくなります。
- 成功事例や課題の共有: 各部門での成功事例や直面している課題を積極的に共有し、組織全体で学び合う文化を醸成します。
まとめ
難民雇用は、企業に多様性をもたらし、社会課題解決に貢献する意義深い取り組みです。しかし、その実現には組織的な体制構築と、人事部門を中心とした関係部門の密な連携が不可欠です。クロスファンクショナルなチーム組成や、各部門の役割と連携ポイントを明確にすることで、プロジェクトはより円滑に進み、難民従業員が組織の一員として活躍できる環境が整備されます。本稿が、貴社における難民雇用推進体制の構築と部門間連携強化の一助となれば幸いです。